バイポーラトランジスタに抵抗を内蔵したデジタルトランジスタですが、データシート上で項目が異なるものがあります。
例えば、コレクタからエミッタに流れる電流に関して、バイポーラトランジスタではコレクタ電流ICで定義しているものが、デジタルトランジスタでは出力電流IOと定義しており、同じ電流でも表記方法が異なります。
今回はその項目について説明します。
コレクタ電流ICと出力電流IOの違い
バイポーラトランジスタのデータシートの絶対最大定格を見ると、コレクタ電流ICが記載されています。
これは、バイポーラトランジスタが流せるコレクタ電流ICの最大値です。
この値を超えて使用するとトランジスタが破損する可能性があります。
一方、デジタルトランジスタにはコレクタ電流ICと出力電流IO(または出力電流IO)のみが記載されています。
どちらもコレクタからエミッタに流れる電流を表しているのですが、意味が異なります。
各項目の意味は
- コレクタ電流IC
- 出力電流IO
デジタルトランジスタを構成しているバイポーラが流せる電流の最大値
デジタルトランジスタが流せる電流の最大値
となっています。
コレクタ電流ICと出力電流IOの違い(一例を紹介)
ここで一例としてローム社のデジタルトランジスタ「DTC144E」で各項目を見てみます。
ローム社の「DTC144E」は
- コレクタ電流ICの絶対最大定格100mA
- 出力電流IOの絶対最大定格30mA
となっており、出力電流IOの絶対最大定格はコレクタ電流ICの絶対最大定格と比較して小さくなっています。
この理由について説明します。
このトランジスタ「DTC144E」に対して、出力電流IO=100mA(=IC)を流す場合を考えてみます。
デジタルトランジスタを構成しているバイポーラトランジスタの直流電流増幅率hFEを100とすると、コレクタ電流IC=100mAを流すためにはベース電流IBは1mA必要になります。
この1mAのベース電流を流すためには高い入力電圧VINが必要となります。
トランジスタの入力抵抗(ベース抵抗)R1を50kΩ、入力抵抗(ベースエミッタ間抵抗)R2を50kΩ、ベースエミッタ間電圧VBEを0.7Vとすると、入力電圧VINは51.4V必要になります(この記事の最後に計算方法を記載しています)。
一方、1mAのベース電流を流すためには高い入力電圧VINが必要といいましたが、デジタルトランジスタには入力電圧VINに絶対最大定格があります。
これは入力抵抗R1の定格電力から決まる電圧です。今回のデジタルトランジスタ「DTC144E」は入力電圧の絶対最大定格が40Vです。
従って、コレクタ電流IC=100mAを流そうとすると、入力電圧VINの絶対最大定格を超えてしまいます。
そのため、入力電圧VINの絶対最大定格を超えずに、デジタルトランジスタが流すことができるコレクタ電流ICを出力電流IOの絶対最大定格としています。
実際に回路設計する際には、出力電流IOの絶対最大定格を使用して考えます。
直流電流増幅率hFEと直流電流増幅率GIの違い
バイポーラトランジスタのデータシートの電気的特性を見ると、直流電流増幅率の記号がhFEです。
これはバイポーラトランジスタに流れるベース電流とコレクタ電流の比です。式では
h_{FE} &=& \displaystyle\frac{I_C}{I_B}
\end{eqnarray}
となります。
一方、デジタルトランジスタには、直流電流増幅率はhFEとGIの2つ(またはどちらか一方)が記載されております。
hFEもGIも直流電流増幅率(正確にはエミッタ接地直流電流増幅率)を表すものですが意味は異なります。
各項目の意味は
- 直流電流増幅率hFE
- 直流電流増幅率GI
デジタルトランジスタを構成しているバイポーラトランジスタの直流電流増幅率
デジタルトランジスタの直流電流増幅率
となっています。
上図において式で書くと、
h_{FE} &=& \displaystyle\frac{I_O}{I_B}\\
G_{I} &=& \displaystyle\frac{I_O}{I_{R1}}
\end{eqnarray}
となります。
このようにデジタルトランジスタとバイポーラトランジスタで直流電流増幅率が異なるのは、デジタルトランジスタには入力抵抗(ベースエミッタ間抵抗)R2があるためです。
入力抵抗(ベース抵抗)R1のみのデジタルトランジスタではIR1=IBなので、
\begin{eqnarray}
G_{I} &=& \displaystyle\frac{I_O}{I_{R1}}
&=& \displaystyle\frac{I_O}{I_B}
&=& h_{FE}
\end{eqnarray}
となります。この場合は、直流電流増幅率hFEと直流電流増幅率GIは等しくなります。
しかし、入力抵抗(ベースエミッタ間抵抗)R2を接続すると、入力電流IR1がベース電流IBと入力抵抗(ベースエミッタ間抵抗)R2に流れる電流に分流します。
そのため、デジタルトランジスタの直流電流増幅率はバイポーラトランジスタと区別してGIと呼ばれています。
なお、デジタルトランジスタの直流電流増幅率GIは直流電流増幅率hFEより小さくなります。
【補足】計算方法
上図の回路においてベース電流を1mA流すために必要な入力電圧VINを求めてみます。
ベースエミッタ間電圧を0.7Vとすると、入力抵抗R2には
\begin{eqnarray}
I_{R2} &=& \displaystyle\frac{0.7[V]}{50[kΩ]}
\end{eqnarray}
の電流が流れます。
そのため、ベース電流IBを1mA流すためには入力抵抗R1に流す電流は
\begin{eqnarray}
I_{R1} &=& I_{R2}+I_{B}\\
&=&\displaystyle\frac{0.7[V]}{50[kΩ]}+1[mA]
\end{eqnarray}
が必要となります。
この電流を流すために入力抵抗R1は以下の電圧が印可される必要があります。
\begin{eqnarray}
V_{R1} &=& I_{R1}×50[kΩ]\\
&=&\left(\displaystyle\frac{0.7[V]}{50[kΩ]}+1[mA]\right)+×50[kΩ]
&=& 50.7[V]
\end{eqnarray}
以上より、ベース電流を1mA流すために必要な入力電圧VINは
\begin{eqnarray}
V_{IN} &=& V_{R1}+0.7\\
&=& 51.4[V]
\end{eqnarray}
となります。