この記事ではトランスのコアロスについて
- トランスのコアロスによる『熱暴走』
- 『熱暴走』の対策
について図を用いて分かりやすく説明しています。
トランスのコアロスによる『熱暴走』
トランスのコアロスは温度によって変化します。
上図は、電源トランスに用いるフェライトコア(TDK製PC47材など)のコアロスPCVと初透磁率μiの温度特性です。上図に示すようにコアロスには極小値となる温度TPが存在します。
そのため、トランスのコアロスは以下の特性を示します。
- 温度TPより低い温度
- 温度TPより高い温度
温度が高くなるとコアロスが減少します。
温度が高くなるとコアロスが増加します。
また、スイッチング電源に用いられるトランスは動作時において、以下の原因などにより、温度が上昇します。
- スイッチング電源が組み込まれた機器の温度上昇
- トランスの鉄損や銅損による自己発熱
- 電源トランス以外の発熱部品(MOSFETやダイオード等)からのあおり熱
この時、スイッチング電源の動作時において、トランスのコア温度がコアロスが極小値となる温度TP付近となれば、コアロスは最小となります。例えば、スイッチング電源の動作時のトランスのコア温度が90℃の場合、温度TPが90℃付近のトランスを用いればコアロスが最小になるということです。
しかし、スイッチング電源が組み込まれた機器が設置されている周囲温度の変化、各発熱部品の発熱のバラツキ等により、トランスのコア温度が安定しないのが現状です。そのため、スイッチング電源の動作時において、トランスのコア温度がコアロスが最小となる温度TP付近の場合、トランスのコア温度が温度TPを超える可能性があります。
トランスのコア温度が温度TPを超えると、「コアロス増加→発熱→コアロス増加→発熱→・・・」という悪循環がおき、温度が上昇し続ける可能性があります。これが、トランスのコアロスによる熱暴走であり、絶対に避けなければいけません。
そのため、トランスの設計やスイッチング電源の設計においては、以下に示すように「スイッチング電源の動作時において、トランスのコア温度がコアロスが最小となる温度TP付近にするように設計する」のではなく、「スイッチング電源の動作時において、トランスのコア温度の推定最大温度より少し高めにコアロスが最小となる温度TP付近がくるように設計する」ことが必要となります。
補足
- 電源トランスでは、一般的にはフェライトコアを用います。電源トランスに用いるフェライトコアは一般的に80℃~100℃でコアロスが極小値になるように作られています。
- 『コアロスが極小値となる温度』と『初透磁率μiが極大値となる温度』はほぼ一致します。
- フェライトの結晶磁気異方性定数k1は温度によって変化し、k1がゼロとなる温度付近で初透磁率μiが極大値となります。
- 熱暴走は英語では「Thermal Runaway」と書きます。
まとめ
この記事ではトランスついて、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- トランスのコアロスによる『熱暴走』
- 『熱暴走』の対策
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